top of page

私が呼ぶ  ブラック・パシフィック[黒い太平洋]とのは、それに面する大陸 

幾世代も重ねた年月、植民地化の長い歴史、グローバル化で環太平洋を繋ぐあらゆる問題の核心までを含む言葉である。

 

歴史は 非常に個人的なこと 非常に個人的なことは 歴史なのだ

この事実は否めようがない

 

この本で 私の一つ意図は ブラック パシフィックに 意識して目を向け 

 道標として 前方に持ち出し 明るみに出すこと 

 この集められたストーリーを語るために

この思いは 環太平洋周辺に住む人たちの 苦難を通り抜け 何世代もの征服 

 奪われた文化の存続や 捕われの身の苦渋を体験し 幾度もの 突然襲う文化

 の取り替えを 生き抜いた人たちから 生まれた

ブラック アトランティック[ 黒い大西洋]は 人種差別と 奴隷制度で

 人の心を 捉える 

だが 私は 違うストーリーを 語りたい

 

私の意図は 読者の既成概念を 破壊させ 苛立たせ 奮起させ 混乱させ 

 しぶしぶ認めさせ 前方に持ち出し と同時にその反動で 少し退き 謙虚に

 させること 少なくとも今は

 

この本は 重く大切な本 

難しいかもしれないが 楽しんで読み 考え 感じてもらいたい

学究風と自由な文体の混ぜ書き

年代順、既成概念、分野、様式、規則などから逸脱

諸々の思想 こうあるべきという形 植民地支配下の「正しい」と みなす考えを

刺激し 揺り起こしたい  

 

人は 記憶である 

歴史の亡霊として またその中で 現在居るものとして 

忘れ 無視し 拒否し あるいは尊敬し 思い出しながら 記憶の石碑

 として歩いている

歴史のなかに生きる亡霊は 私たちに つきまとい

「夢時間」[Dreamtime] のなかで 夢を作ったり 作り直したり  

 現実の夢か 消え去ったか夢か

 

全てのストーリーは 語りきれない

だからこの道を辿って歩き、語り始めたい

この本は その一歩だ

 

読者と分かち合うために しなければならないのは 記憶と人によって 

 作られた既成の組織を 解きほどくこと

 

これは記憶の日誌

書いているものすべて 意見 覚え書き 思い出に残っているもの

 会話の記録や夢—ある具体的なストーリーを 明るみに持ち出して

 語るために選んだもの

従来の 学問的な社会史でもなく 回想記でもない

そして 決して 自伝などではない

知と情を 往き来しながらの 長い瞑想である

 

日誌は「私」で始まる

サンフランシスコの ホテルの独り部屋で

何かに妨げられ 目が覚めている 

それが何なのか わからず

私は 突然 電気スタンドに 手を伸ばし 紙とペンを 取り出して

 意味ありげに 書き始める

 

Mizuko  水子、水の子供たち

戦後日本で 他の意味を含んで 言われた言葉—

 流産した胎児

  死んだ子供たち

   中絶した子供たち

    流産した子供たち

     幼少期に殺された子供たち

 

何かがある   人がいる   歴史がある

よくは 覚えていない

だが私は 忘れることを 拒否する

 

日本の青梅  Ōme、東京都青梅市]生まれ 立川市の空軍基地で 育った

母は 私の父が アメリカから戻ってこないだろうと 心配していた

 米国の法律は 彼らの結婚を 禁じたから

父は 帰ってきた

私が 7歳のとき 一家は アメリカに 移った

アメラジアン [アジア系アメリカ人] 混血児 ハーフ 合いの子 

 黒んぼ 雑種犬 ジャップ等等と見なされる世間に 育てられた

占領時の アフリカ系アメリカ軍人と結婚し 日本人女性として 

 生きた母

多くの苦労を超え ほとんど女手独りで 育ててくれた

歴史 存在軽視 匿名 同化 相違 抵抗を 通ってきた 我々のような者に  

 一体 人の世は 何を 意味するのか

 

諸々の抑圧を 持ち続けながらも 繋げるものは 何なのか

それらの抑圧は 私を 世界を どう 作り上げるのか

人は 抑圧されており 事実を 忘れ易い

なのに 私に何が できるのか

もしかしたら 人を感化させ 社会を変えるために

 

水子の意味に 疑問を持ち また母と 日本から ハワイ ニュー メキシコへと 

 移り住んだ思い出を 辿る間 

母との生活が 私がストーリーを始める 揺るぎない拠点である

私が書き始めたのは あの幼い少年の 私自身に 再び会うためでもあった

こうした経歴を抱え  人権の強化 正義 失われる記憶を 明るみに 出すために  

 黒人戦争[Black War]の犠牲者達 太平洋にまたがった奴隷売買 フィリピンの

 村民 黒人と韓国人間の混血児 涙の道 [インディアンの強制移動] KKK 中国の

 オーストリア宣教師団 呉(越)文化  大日本帝国軍人 他の諸々の繋がりが

    呼び戻される 

 

また 母 父 先祖 私自身を 延々と続く家族の背景のなかに 置いてみたかった

生まれ落ちた時 付けられたアイデンティティーを 引きずり  

または 世の中と暴力   不正義   時の流れ自体   グローバル化の勢力で 

 すっきりと配列された世の中を 変える間に 付けられたアイデンティティーを 

    引きずって

これらのアイデンティティーは すでに存在したものではない

すべて 人によって 作られたものだ

 

黒人 アジア人 原住民 白人であること

今現在を 受け入れ 繰り返えされ続けること

私は それらを 明るみに 呼び出したい

 

水子の夢—オーストラリアや 太平洋諸島に 住み始めた原住民は 

 それを「夢時間」と 呼んだ

 

水は 流れる

太平洋の水は 私が書き始めたストーリーを 語る

 

私は 希望というものを 疑い 希望が必要なのかを 疑う

私は 何百万もの 水子に代わって 正義を 求める

This Japanese version of the synopsis has been co-authored by Fredrick Cloyd, Aya Kawasaki and Kazuko Ikeda.

水子の夢

ブラック・パシフィックの記憶と嘆き

bottom of page